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脂質異常症(高脂血症)

脂質異常症(高脂血症)

血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)140mg/dl以上、トリグリセライド(中性脂肪)150mg/dl以上、non HDL コレステロール(総コレステロール-HDLコレステロール)が170mg/dl以上に増加するか 、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl未満に減少したために基準値から外れた状態を脂質異常症といい、動脈硬化を引き起こすことが問題となります。 遺伝子異常などから発症している原発性脂質異常症と、生活習慣や疾患に続発して起きている続発性脂質異常症に大別されます。日本国内の脂質異常症の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、220万5,000人(男性63万9,000人、女性156万5,000人)と非常に多く、年々増加傾向です。食生活、運動不足、肥満、喫煙、飲酒、ストレスなどの生活習慣が関係する続発性脂質異常症が主といわれています。特に内臓脂肪型肥満の方はLDLコレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)が多くなり、HDLコレステロールが少なくなりやすい傾向があります。
また、糖尿病・甲状腺機能低下症・クッシング症候群・ネフローゼ症候群・慢性腎不全・閉塞性黄疸・肝硬変などの疾患や、ステロイドなどの薬剤が原因となる続発性脂質異常症もあります。これらの続発性脂質異常症は、原因を治療もしくは取り除くことにより改善するため、鑑別が重要です。

続発性脂質異常症の分類

A.高コレステロール血症

  • 甲状腺機能低下症
  • ネフローゼ症候群
  • 原発性胆汁性肝硬変
  • 閉塞性黄疸
  • 糖尿病
  • クッシング症候群
  • 薬剤
    (利尿薬・β遮断薬・コルチコステロイド・経口避妊薬・サイクロスポリンなど)

B.高トリグリセライド血症

  • 飲酒
  • 肥満
  • 糖尿病
  • クッシング症候群
  • 尿毒症
  • SLE
  • 血清蛋白異常症
  • 薬剤
    (利尿薬・非選択性β遮断薬・コルチコステロイド・エストロゲン・レチノイドなど)

動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版
日本動脈硬化学会編 15頁引用

原発性脂質異常症

原発性脂質異常症は病態や遺伝子異常に基づき大きく5つの病型に分類され、病型により頻度は100人に1人のものから100万人に一人のものまで様々です。代表的なものの一つに家族性高コレステロール血症があります。下記が該当する方は早めに医師に相談しましょう。

  • 未治療時のLDLコレステロールが180mg/dL以上
  • 皮膚や腱に黄色腫がある
  • 家族や親せきがLDLコレステロールが180mg/dL以上もしくは若年(男性は55歳以下、女性は65歳以下)で冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞など)と診断されている

脂質異常症を放置すると血管内に脂肪が蓄積し詰まりやすくなる、いわゆる「動脈硬化」が進行し心筋梗塞や脳梗塞などの疾患を引き起こしてしまいます。また、認知症などの原因にもなります。日本動脈硬化学会では、動脈硬化性疾患を防ぐため過去の研究結果を基に、患者さん一人一人が持っているリスクに応じた「管理目標値」を設定しています。特に、過去に動脈硬化性疾患を起こしたことがある方、糖尿病、慢性腎臓病をお持ちの方では、より厳格な管理が必要となります。

出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

過去の動脈硬化性疾患の既往や、糖尿病、慢性腎臓病などの疾患をお持ちでない方は、「久山町スコア」を計算しリスク評価を行い、それぞれのリスクに合わせた目標値内に収まるよう管理を行います。

出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」

脂質異常症はほとんどの場合、適切な治療を受ければ管理可能な疾患ですが、自覚症状がほとんどないため、放置してしまうと知らないあいだに動脈硬化が進行してしまいます。将来の動脈硬化を予防し健康を守るために、脂質異常症に早めに対処することが重要です。

脂質異常症治療のための生活改善

まずは食事療法と運動療法によって生活習慣を見直し、体重、特に内臓脂肪を減らすことが重要です。

高LDLコレステロール血症

内臓脂肪を減らすため1日の摂取カロリーを適正に管理し、1日3食の栄養バランスが取れた食事を摂取することが大切です。
LDLコレステロール値が高くなる原因として、肉の脂身・バターやラード・生クリームなどに多く含まれる飽和脂肪酸の摂り過ぎがあげられます。パームヤシやカカオの油脂、インスタントラーメンなど加工食品にも多く含まれています。また鶏卵の黄身や魚卵に多く含まれるコレステロールも、飽和脂肪酸と比べると影響が小さいといわれていますがLDLコレステロールを高くするため、食べ過ぎは控え活性酸素を除去する働きを持つ野菜や果物、食物繊維が多く含まれるキノコや豆類などを意識して摂取しましょう。

高トリグリセライド(中性脂肪)血症

トリグリセライド(中性脂肪)とは、いわゆる体脂肪に多く含まれます。肉・魚などの脂身、油などの食べ物にも多く含まれており、活動のエネルギー源となる、生きていくうえで欠かせないものですが、増えすぎると様々な問題を引き起こします。中性脂肪が高値になる要因としては、カロリー摂取過多、甘いものや炭水化物・酒・油ものの摂りすぎがあげられます。これらを改めて運動や体重の減量を行うことで、中性脂肪を下げることができます。また背の青い魚に多く含まれるn-3系(ω-3系)多価不飽和脂肪酸(DHA、EPAなど)には、中性脂肪を下げる働きがあります。血中の中性脂肪の値を適切に管理するために、1日30分以上の運動を週3回以上行うことを習慣化し、1日3食の栄養バランスが取れた食事を摂取することが大切です。栄養バランスが取れているからといってカロリーの摂り過ぎは禁物です。腹八分目で抑えるようにしましょう。

低HDLコレステロール血症

善玉であるHDLコレステロールの血中の値が少なすぎる状態です。マーガリンやショートニングなどのトランス脂肪酸を摂取しすぎることは避け、脂質を過度に制限しないように栄養バランスを意識した食事を摂りましょう。運動や体重の減量・禁煙によりHDLコレステロールの上昇が見込まれます。なお、飲酒にはHDLコレステロールを高くする働きがありますが、飲酒は少量でも高血圧や肝障害を悪化させるため、控えたほうがよいと考えられます。

脂質異常症の薬物療法

生活習慣を見直すだけではコントロールできない場合は、薬物療法を行います。
脂質の値が極端に高いなどの原発性脂質異常症が考えられる方は、最初から薬物療法を始めることもあります。高LDLコレステロール血症にはHMG-CoA還元酵素阻害剤=スタチン系薬(プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン)、コレスチミド、コレスチラミン、エゼチミブ、プロブコール、エボロクマブ、ロミタピドなどが有効です。高トリグリセリド血症の治療にはフィブラート系薬(ベザフィブラート、フェノフィブラート、ペマフィブラート)やEPA製剤(EPA、EPA・DHA)、ニコチン酸製剤があります。
脂質の値をしっかりと管理するために、毎日のお薬の内服を忘れないこと、自己判断で内服を中止しないことが重要です。なお、重症の家族性高コレステロール血症の患者さんにはLDLアフェレーシスという血清中のLDLを直接除去する方法が行われます。

脂質異常症の方は動脈硬化の検査を受けましょう

脂質異常症は、動脈の内側に血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などが沈着してプラークとなり、血管内が狭くなり詰まることで心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こします。したがって動脈硬化の検査を行うことが重要です。当院では下記の動脈硬化の検査を行っております。

 頸動脈エコー

動脈硬化の進行状態を確認するために行う検査で、その日のうちに結果が分かります。首にエコーゼリーを塗り、そこにプローブとよばれる超音波機器をあてて総頚動脈、内頚動脈、外頚動脈などの状態をモニターでリアルタイムに確認し、動脈の大きさや血管壁の厚さ、血管内プラークの有無、血流などを評価します。この検査は患者さんには痛みなどの負担をかけない簡便な方法で行われますので、安心して気軽に受けることができます。

血圧脈波検査(PWV/CAVI/ABI)

血圧脈波検査は、血管の硬さや詰まりといった血管の状態を調べる血管機能検査のひとつです。ベッドに仰向けに寝て、両腕、両足首に血圧計のようなカフを巻き、胸元に心音マイクをつけるだけの簡便な検査です。時間は5分程度で済み、痛みなどの苦痛もなく、検査結果もその日のうちに分かります。
心臓が血液を体内に押し出すとき、健康でしなやかな血管では、弾力性や柔軟性に富むため、血管内の圧力(血圧)があまり上昇せず血流速度もゆるやかになります。動脈硬化によって弾力性や柔軟性が失われた血管では、心臓が収縮し血液を押し出すときに血管内圧があがり、血流速度も速くなります。血流が末梢に伝播することを脈波といい、脈波の速度は、血管が正常であれば比較的ゆっくりですが、血管壁が硬い、厚い、内腔が狭いなどの動脈硬化を示唆する所見があるほど速くなります。
血圧脈波検査では動脈硬化の指標として脈波の速度から血管の硬さを評価するPWVもしくはCAVI、上下肢の血圧の比から下肢の動脈の詰まりを評価するABIという数値を測定します。

  • PWV(pulse wave velocity):上腕動脈と足関節動脈の二点の脈波速度を測定します。baPWV( brachial-ankle PWV)とも呼ばれ、血管の硬さの指標になります。
  • CAVI(cardio-ankle vascular index):心臓(cardio)から足首(ankle)までの動脈(vascular)の硬さの指標(index)の略です。PWV同様、脈波速度を表しますが、PWVに比べて血圧に左右されにくいため、より再現性が高いと考えられます。
  • ABI(ankle-brachial pressure index):足関節の収縮期血圧を上腕の収縮期血圧(左右どちらか高い方)で割った数値のことです。下肢の動脈の詰まりの程度を調べるのに有用です。

当院では、フクダ電子社製の血圧脈波検査装置VaSera VS-2500を使用してCAVIとABIを測定します。